慶應日記@はてな

慶應義塾大学・通信教育課程・法学部・乙類・70期・学士入学の学習記録・復習ノートなどなど

労働法 科目試験覚書

 

労働法(?)

20077

判例及び近年の政策動向を踏まえ、以下のうち1問について論じなさい。

1 年休の時季変更権について述べよ

2 争議行為と賃金について述べよ

20071

次の2つから1つを選び、判例や近年の政策動向を基に述べよ。

①懲戒処分

②部分スト不参加者の賃金

2006年10月

判例及び近年の政策動向を踏まえ、以下のうち1問について論じなさい。

1配置転換と出向

2不当労働行為の救済

20067

判例及び近年の政策動向を踏まえ,以下のうち1問について論じなさい。

(1) 就業規則の不利益変更

(2) 労使協定の拡張

20064

判例及び近年の政策動向を踏まえ、以下のうち1問について論じなさい。

1.雇用における男女の平等

2.管理職組合

2000.4

判例の傾向を含め論じる

1.内示取消 2.使用者の中立保持義務

2005.10

判例の動向を含めて、1つ選んで具体的に説明せよ。

1健康診断受診義務2勤務時間中の組合活動

2005.7

判例の動向を含めて、1つ選んで具体的に説明せよ。

1配転命令2争議行為と賃金

20041

1.私生活上の非行と懲戒 2.団体交渉許否・・の救済

20014

下記の2問について裁判例の傾向を含めながら論じなさい。

1.公務員の労働基本制限 2.時間外労働とその根拠"

20017

"下記の2問について裁判例の傾向を含めながら論じなさい。

1.複数組合並存下における賃金昇格差別

2.賃金支払い原則について相殺債権放棄に関連させて論ぜよ"

20024

"下記の2問について裁判例の傾向を含めながら論じなさい。

1.労働契約の始期 2.労働組合の統制権"

・・・

"1.団体交渉の対象事項 

2.労働時間の法的規制" 19956

"1.労働争議の理由と正当性 

2.解雇整理" 199511

"1.不当労働となる使用者の行為 

2.労働基準法賃金支払方法に付いて" 19961

 

"1,時間外労働義務 

2,施設管理権と支配介入" 19966

 

1.期間の定めのある契約の締結と更新 

2.就業規則による労働条件の変更" 199611

 

出典:ttp://keiotushin.blog115.fc2.com/blog-entry-9.html

 

 

 

20077

判例及び近年の政策動向を踏まえ、以下のうち1問について論じなさい。

1 年休の時季変更権について述べよ

2 争議行為と賃金について述べよ

 

<年休の時季変更権について述べよ>

 

1 構造

 

労働基準法39-1

労働基準法39-5

 

学説:形成権、請求権、2分説

判例2分説

 

2 発生要件

 

労働基準法39-1

 

3 年休の時季変更権

 

労働基準法39-5

条件:弘前電報電話局事件・時事通信社事件

 

<参考文献>

水町勇一郎(2016:『労働法 第6版』,pp.274ff

 

<争議行為と賃金について述べよ>

 

1 賃金請求権

水町勇一郎(2016pp.231ff

 

2 争議行為と賃金

水町勇一郎(2016pp.398-399.

 

<参考文献>

水町勇一郎(2016:『労働法 第6版』,pp.231ffpp.398-399.

 

 

 

20071

次の2つから1つを選び、判例や近年の政策動向を基に述べよ。

①懲戒処分

②部分スト不参加者の賃金

 

<懲戒処分>

1 法的根拠

水町勇一郎(2016,p.160

 

種類、事由:水町勇一郎(2016,p.163ff

 

2 判例

 

判例:企業秩序定立権 水町勇一郎(2016,pp.158ff

人的要素、物的施設、限定

 

<部分スト不参加者の賃金 >

水町勇一郎(2016,pp.231ffpp.398-399.

 

<参考文献>

水町勇一郎(2016:『労働法 第6版』,pp.231ffpp.398-399.

 

 

2006年10月

判例及び近年の政策動向を踏まえ、以下のうち1問について論じなさい。

1配置転換と出向

2不当労働行為の救済

 

<不当労働行為の救済>

 

労働委員会による救済

裁判所による救済

水町勇一郎(2016:『労働法 第6版』,pp.415-.424.

 

20067

判例及び近年の政策動向を踏まえ,以下のうち1問について論じなさい。

(1) 就業規則の不利益変更

(2) 労使協定の拡張

 

就業規則の不利益変更>

<労使協定の拡張 >

 

 

20064

判例及び近年の政策動向を踏まえ、以下のうち1問について論じなさい。

1.雇用における男女の平等

2.管理職組合

 

 

 

19966

 

"1,時間外労働義務 

2,施設管理権と支配介入"

 

<時間外労働義務 >

水町勇一郎(2016:『労働法 第6版』,pp.261ff

 

<施設管理権と支配介入>

 

支配介入:水町勇一郎(2016,pp.412ff

 

猿払事件

猿払事件:昭和491106日 刑集289393

 

<結果・その他>

結果:破棄自判。
主文:原判決及び第一審判決を破棄する。
被告人を罰金5,000円に処する。被告人において右罰金を完納することができないときは、金1,000円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。原審及び第一審における訴訟費用は被告人の負担とする。

<理由>
本件政治的行為の禁止の合憲性
憲法21条の保障する表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものである。そして、およそ政治的行為は、行動としての面をもつほかに、政治的意見の表明としての面をも有するものであるから、その限りにおいて、憲法21条による保障を受ける

国家公務員法1021項及び規則によつて公務員に禁止されている政治的行為が国民一般に対して禁止されるのであれば、憲法違反の問題が生ずることはいうまでもない。

しかしながら、国家公務員法1021項及び規則による政治的行為の禁止は、公務員のみに対して向けられているものである。ところで、憲法152項の規定からもまた、公務が国民の一部に対する奉仕としてではなく、その全体に対する奉仕として運営されるべきものであることを理解することができる。

公務のうちでも行政の分野におけるそれは、憲法の定める統治組織の構造に照らし、議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し、もつぱら国民全体に対する奉仕を旨とし、政治的偏向を排して運営されなければならないものと解されるのであつて、そのためには、個々の公務員が、政治的に、一党一派に偏することなく、厳に中立の立場を堅持して、その職務の遂行にあたることが必要となるのである。

すなわち、行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならないというべきである。

したがつて、公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならない。

↓ 

<判断基準>

国家公務員法1021項及び規則による公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたつては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の三点から検討することが必要である。

↓ 

<禁止の目的及びこの目的と禁止される行為との関連性>

そこで、まず、禁止の目的及びこの目的と禁止される行為との関連性について考えると、もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずから公務員の政治的中立性が損われ、ためにその職務の遂行ひいてはその属する行政機関の公務の運営に党派的偏向を招くおそれがあり、行政の中立的運営に対する国民の信頼が損われる。

また、公務員の右のような党派的偏向は、逆に政治的党派の行政への不当な介入を容易にし、行政の中立的運営が歪められる可能性が一層増大するばかりでなく、そのような傾向が拡大すれば、本来政治的中立を保ちつつ一体となつて国民全体に奉仕すべき責務を負う行政組織の内部に深刻な政治的対立を醸成し、そのため行政の能率的で安定した運営は阻害され、ひいては議会制民主主義の政治過程を経て決定された国の政策の忠実な遂行にも重大な支障をきたすおそれがあり、このようなおそれは行政組織の規模の大きさに比例して拡大すべく、かくては、もはや組織の内部規律のみによつてはその弊害を防止することができない事態に立ち至るのである。

したがつて、このような弊害の発生を防止し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するため、公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請に応え、公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するための措置にほかならないのであつて、その目的は正当なものというべきである。

また、右のような弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められるのであつて、たとえその禁止が、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営を直接、具体的に損う行為のみに限定されていないとしても、右の合理的な関連性が失われるものではない。

↓ 

<失われる利益・禁止により得られる利益>
次に、利益の均衡の点について考えてみると、政治的行為を、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず、かつ、国家公務員法1021項及び規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく、他面、禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。


以上の観点から本件で問題とされている規則53号、613号の政治的行為をみると、その行為は、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布する行為であつて、政治的偏向の強い行動類型に属するものにほかならず、政治的行為の中でも、公務員の政治的中立性の維持を損うおそれが強いと認められるものであり、政治的行為の禁止目的との問に合理的な関連性をもつものであることは明白である。

また、その行為の禁止は、もとよりそれに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしたものではなく、行動のもたらす弊害の防止をねらいとしたものであつて、国民全体の共同利益を擁護するためのものであるから、その禁止により得られる利益とこれにより失われる利益との間に均衡を失するところがあるものとは、認められない。

したがつて、国家公務員法1021項及び規則53号、613号は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものということはできない。

↓ (非管理職現業公務員の労働組合活動の一環である点)
ところで、第一審判決は、その違憲判断の根拠として、被告人の本件行為が、非管理職である現業公務員でその職務内容が機械的労務の提供にとどまるものにより、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ、職務を利用せず又はその公正を害する意図なく、労働組合活動の一環として行われたものであることをあげ、原判決もこれを是認している。

しかしながら、本件行為のような政治的行為が公務員によつてされる場合には、当該公務員の管理職・非管理職の別、現業・非現業の別、裁量権の範囲の広狭などは、公務員の政治的中立性を維持することにより行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保しようとする法の目的を阻害する点に、差異をもたらすものではない。

右各判決が、個々の公務員の担当する職務を問題とし、本件被告人の職務内容が裁量の余地のない機械的業務であることを理由として、禁止違反による弊害が小さいものであるとしている点も、有機的統一体として機能している行政組織における公務の全体の中立性が問題とされるべきものである以上、失当である。

郵便や郵便貯金のような業務は、もともと、あまねく公平に、役務を提供し、利用させることを目的としているのであるから(郵便法1条、郵便貯金1条参照)、国民全体への公平な奉仕を旨として運営されなければならないのであつて、原判決の指摘するように、その業務の性質上、機械的労務が重い比重を占めるからといつて、そのことのゆえに、その種の業務に従事する現業公務員を公務員の政治的中立性について例外視する理由はない。

また、前述のような公務員の政治的行為の禁止の趣旨からすれば、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無、職務利用の有無などは、その政治的行為の禁止の合憲性を判断するうえにおいては、必ずしも重要な意味をもつものではない。

さらに、政治的行為が労働組合活動の一環としてなされたとしても、そのことが組合員である個々の公務員の政治的行為を正当化する理由となるものではなく、また、個々の公務員に対して禁止されている政治的行為が組合活動として行われるときは、組合員に対して統制力をもつ労働組合の組織を通じて計画的に広汎に行われ、その弊害は一層増大することとなるのであつて、その禁止が解除されるべきいわれは少しもないのである。


第一審判決及び原判決は、また、本件政治的行為によつて生じる弊害が軽微であると断定し、そのことをもつてその禁止を違憲と判断する重要な根拠としている。しかしながら、本件における被告人の行為は、衆議院議員選挙に際して、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布したものであつて、その行為は、具体的な選挙における特定政党のためにする直接かつ積極的な支援活動であり、政治的偏向の強い典型的な行為というのほかなく、このような行為を放任することによる弊害は、軽微なものであるとはいえない。

のみならず、かりに特定の政治的行為を行う者が一地方の一公務員に限られ、ために右にいう弊害が一見軽微なものであるとしても、特に国家公務員については、その所属する行政組織の機構の多くは広範囲にわたるものであるから、そのような行為が累積されることによつて現出する事態を軽視し、その弊害を過小に評価することがあつてはならない。


(本件政治的行為に対する罰則の合憲性)
国家公務員法1021項及び規則による公務員の政治的行為の禁止は、…表現の自由に対する合理的で必要やむをえない制限であると解され、かつ、刑罰を違憲とする特別の事情がない限り、立法機関の裁量により決定されたところのものは、尊重されなければならない。

そこで、国家公務員法制定の経過をみると、現行法の110119号のような罰則を存置することの必要性が、国民の代表機関である国会により、わが国の現実の社会的基盤に照らして、承認されてきたものとみることができる。

その保護法益の重要性にかんがみるときは、罰則制定の要否及び法定刑についての立法機関の決定がその裁量の範囲を著しく逸脱しているものであるとは認められない。特に、本件において問題とされる規則53号、613号の政治的行為は、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書の掲示又は配布であつて、前述したとおり、政治的行為の中でも党派的偏向の強い行動類型に属するものであり、公務員の政治的中立性を損うおそれが大きく、このような違法性の強い行為に対して国家公務員法の定める程度の刑罰を法定したとしても、決して不合理とはいえず、したがつて、右の罰則が憲法31条に違反するものということはできない。

また、公務員の政治的行為の禁止が憲法21条に違反するものではないと判断される以上、その違反行為を構成要件として罰則を法定しても、そのことが憲法21条に違反することとなる道理は、ありえない。

右各判決は、たとえ公務員の政治的行為の禁止が憲法21条に違反しないとしても、その行為のもたらす弊害が軽微なものについてまで一律に罰則を適用することは、同条に違反するというのであるが、違反行為がもたらす弊害の大小は、とりもなおさず違法性の強弱の問題にほかならないのであるから、このような見解は、違法性の程度の問題と憲法違反の有為が問題とを混同するものであつて、失当というほかはない。


原判決は、さらに、規制の目的を達成しうる、より制限的でない他の選びうる手段があるときは、広い規制手段は違憲となるとしたうえ、被告人の本件行為に対する制裁としては懲戒処分をもつて足り、罰則までも法定することは合理的にして必要最小限度を超え、違憲となる旨を判示し、第一審判決もまた、外国の立法例をあげたうえ、被告人の本件行為のような公務員の政治的行為の禁止の違反に対して罰則を法定することは違憲である旨を判示する。

しかしながら、外国の立法例は、一つの重要な参考資料ではあるが、右の社会的諸条件を無視して、それをそのままわが国にあてはめることは、決して正しい憲法判断の態度ということはできない。

懲戒処分と刑罰とは、その目的、性質、効果を異にする別個の制裁なのであるから、前者と後者を同列に置いて比較し、司法判断によつて前者をもつてより制限的でない他の選びうる手段であると軽々に断定することは、相当ではないというべきである。なお、政治的行為の定めを人事院規則に委任する国家公務員法1021項が、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を具体的に定めることを委任するものであることは、同条項の合理的な解釈により理解しうるところである。

右条項は、それが同法82条による懲戒処分及び同法110119号による刑罰の対象となる政治的行為の定めを一様に委任するものであるからといつて、そのことの故に、憲法の許容する委任の限度を超えることになるものではない。右各判決は、また、被告人の本件行為につき罰則を適用する限度においてという限定を付して右罰則を違憲と判断するの…は、法令が当然に適用を予定している場合の一部につきその適用を違憲と判断するものであつて、ひつきょう法令の一部を違憲とするにひとしく、かかる判断の形式を用いることによつても、上述の批判を免れうるものではない。
結論
以上のとおり、被告人の本件行為に対し適用されるべき国家公務員法110119号の罰則は、憲法21条、31条に違反するものではなく、また、第一審判決及び原判決の判示する事実関係のもとにおいて、右罰則を被告人の右行為に適用することも、憲法の右各法条に違反するものではない。…第一審判決の認定した事実…に法令を適用すると、被告人の各行為は、いずれも国家公務員法110119号…、1021項、規則53号、613号に該当するので、所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上は刑法45条前段の併合罪であるから、同法482項により各罪につき定めた罰金の合算額以下において被告人を罰金5,000円に処し、同法18条により被告人において右罰金を完納することができないときは金1,000円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、刑訴法1811項本文により原審及び第一審における訴訟費用は被告人の負担とし、主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官大隅健一郎、同関根小郷、同小川信雄、同坂本吉勝の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

 

 

<補足>

 

間接的、付随的な制約:香城理論(香城敏麿)の影響(小山剛(2016p37

両者は区別すべき

付随的規制:刑法130条とビラ配布の禁止、自然災害を理由とした立ち入り禁止→取材の自由、象徴的表現に対する規制

間接的規制:宗教法人に対する解散命令→宗教的結社の自由・信徒の信教の自由

 

間接的、付随的な制約:直接規制よりはゆるい木村草太2011p.137-139.

参考:ビラ貼りの規制のケース

刑法130条:意見表明そのものではなく管理権の保護を目的

意見表明の制約はあるが、行動の禁止を伴う程度での間接的、付随的な制約

特定の意見表明を狙い撃ちして規制するといった不当な目的に濫用される可能性は低い

表現の自由の制約は重大ではなく審査基準も厳格にする必要性はない

木村草太2011p.148参照)

 

・比例原則に親和的(宍戸常寿2014p.79)・行動を伴う言論の規制(宍戸常寿2014p.148-149.

行動を伴う言論=表現内容中立規制に含まれる→合憲性判断には厳格な審査は行わない

判例の見解:公務員の政治的行為:意見表明と行動の2側面がある

→合憲性判断:禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の三点から検討

※言論と行動の区別→利益衡量

判例の問題点:

行動を伴う言論の規制ではなく表現の自由を直接禁止するものである。(そのため)「この目的と禁止される政治的行為との関連性」を合理的関連性で審査をするのは審査基準として緩やか過ぎる。

→公務員の職種等に応じて目的達成のために最小限な禁止になるようにLRAの基準により審査をすべき(学説)

 

駒村圭吾2013p.109

合理的関連性の審査基準:立法目的との間に合理的な関連性をもつ規制手段であれば、他のより限定的な規制手段があるか否かを問題とすることなく合憲とする。

→合理性と必要性の審査との区別

→利益衡量の判断の中にLRAに相当するものがある

※「国家公務員法1021項及び規則による公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたつて・・・」としている

 

駒村圭吾2013p.18ff

全逓東京中郵事件-昭和411026最高裁判決

全司法仙台事件-昭和4442最高裁判決

全農林警職法事件-昭和48425最高裁判決

 

<参考文献>

香城敏麿(2005:『憲法解釈の法理 香城敏麿著作(1) 』、信山社

木村草太(2011:『憲法の急所―権利論を組み立てる』、羽鳥書店

駒村圭吾(2013憲法訴訟の現代的転回: 憲法的論証を求めて (法セミLAW CLASS シリーズ)日本評論社

安西文雄・巻美矢紀・宍戸常寿(2014):『憲法学読本』第六章、有斐閣
小山剛(2016:『「憲法上の権利」の作法』、尚学社

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8C%BF%E6%89%95%E4%BA%8B%E4%BB%B6

公務執行妨害・業務妨害

  <客体>   <手段> <適用条文> <未遂> <罪刑> <備考>
  公務 適法な公務(現在) 暴行(直接・間接)・脅迫 95条1項   三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金 結果発生は不要
  適法な公務(将来・権限外もOK:判例) 95条2項   三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金 ※暴行・脅迫のみで成立
  違法な公務   保護されない(判例      
  判例→※権力的公務 暴行・脅迫 95条1項   三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金  
  上記以外 233条非適用      
  判例→※非権力的公務 威力 233条適用   三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金  
  偽計 233条(裁判所の競売)、かつての否定判例教育勅語   三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金  
  判例→※非権力的公務(瑕疵) 威力・偽計 233条適用の否定の余地      
  人の信用   虚偽の風説を流布し、又は偽計 233条   三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金  
  人の業務   虚偽の風説を流布し、又は偽計 233条   三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金  
    威力 234条   三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金  
  電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録 損壊・虚偽の情報・不正な指令 234条2の1項 234条2の2項 五年以下の懲役又は百万円以下の罰金  
               
               
               
<条文> 引用元:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html <注釈:山口厚(2011)、pp.273-274.,pp.448ff>  
95条1項 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。 →適法性が必要・職務、公務員、方式 ※主観・客観・折衷
95条2項 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。    
               
  第三十五章 信用及び業務に対する罪 →業務;職業・社会的地位による事務・事業  
            →要継続性(判例  
            →人の信用:経済面・判例:商品に関する信頼  
233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 →風説:一部が客観的事実に反する情報の伝播  
            →偽計:人の錯誤or無知を利用(詐欺罪より緩い)  
234条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。 →威力:人の自由意思を制圧するに足る(広くとる)  
234条2 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。    
234条2の2項 前項の罪の未遂は、罰する。    
               
<参考文献>          
山口厚(2011):『刑法』          

放火及び失火の罪

  放火罪の整理    
                 
<客体> <人の有無・所有者> <行為> <適用条文> <未遂・112条> <予備・113条> <罪刑>    
建造物 現住:現に人が住居に使用 放火して焼損 108条 罰する 二年以下の懲役 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
現在:現に人がいる 放火して焼損 108条 罰する 二年以下の懲役 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
非現住 放火して焼損 109条1項 罰する 二年以下の懲役 二年以上の有期懲役    
非現住・自己所有 放火して焼損 109条2項     六月以上七年以下の懲役・公共の危険を生じなかったときは、罰しない    
非現住・自己所有 現住建造物or他人所有非現住建造物に延焼 111条1項     三月以上十年以下の懲役に処する。    
汽車 現住:現に人が住居に使用 放火して焼損 108条 罰する 二年以下の懲役 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
現在:現に人がいる 放火して焼損 108条 罰する 二年以下の懲役 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
非現住 放火して焼損 よって公共の危険を生じさせた 110条1項     一年以上十年以下の懲役に処する    
※非現住・自己所有 放火して焼損 よって公共の危険を生じさせた 110条2項     一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処す    
※非現住・自己所有 現住建造物or他人所有非現住建造物に延焼 111条1項     三月以上十年以下の懲役に処する。    
電車 現住:現に人が住居に使用 放火して焼損 108条 罰する 二年以下の懲役 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
現在:現に人がいる 放火して焼損 108条 罰する 二年以下の懲役 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
非現住 放火して焼損 よって公共の危険を生じさせた 110条1項     一年以上十年以下の懲役に処する    
※非現住・自己所有 放火して焼損 よって公共の危険を生じさせた 110条2項     一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処す    
※非現住・自己所有 現住建造物or他人所有非現住建造物に延焼 111条1項     三月以上十年以下の懲役に処する。    
艦船 現住:現に人が住居に使用 放火して焼損 108条     死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
現在:現に人がいる 放火して焼損 108条     死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
非現住 放火して焼損 109条1項 罰する 二年以下の懲役 二年以上の有期懲役    
非現住・自己所有 放火して焼損 109条2項     六月以上七年以下の懲役・公共の危険を生じなかったときは、罰しない    
非現住・自己所有 現住建造物or他人所有非現住建造物に延焼 111条1項     三月以上十年以下の懲役に処する。    
鉱抗 現住:現に人が住居に使用 放火して焼損 108条 罰する 二年以下の懲役 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
現在:現に人がいる 放火して焼損 108条 罰する 二年以下の懲役 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役    
非現住 放火して焼損 109条1項 罰する 二年以下の懲役 二年以上の有期懲役    
非現住・自己所有 現住建造物or他人所有非現住建造物に延焼 111条1項     三月以上十年以下の懲役に処する。    
建造物等以外 自己所有以外 放火して焼損 よって公共の危険を生じさせた 110条1項     、一年以上十年以下の懲役    
自己所有 放火して焼損 よって公共の危険を生じさせた 110条2項     一年以下の懲役又は十万円以下の罰金    
自己所有 自己所有以外に延焼 111条2項     三年以下の懲役    
                 
<条文>   引用元:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html       ※適用
108条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。 112条・113条
109条1項 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する。 112条・113条・115条
109条2項 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。  
110条1項 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 115条
110条2項 前項の物が自己の所有に係るときは、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。  
111条1項 第百九条第二項又は前条第二項の罪を犯し、よって第百八条又は第百九条第一項に規定する物に延焼させたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。  
111条2項 前条第二項の罪を犯し、よって同条第一項に規定する物に延焼させたときは、三年以下の懲役に処する。  
112条 第百八条及び第百九条第一項の罪の未遂は、罰する。  
113条 第百八条又は第百九条第一項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができ  
114条 火災の際に、消火用の物を隠匿し、若しくは損壊し、又はその他の方法により、消火を妨害した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。  
115条 第百九条第一項及び第百十条第一項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。
     
     
      <参照文献>          
山口厚(2011):『刑法』
井田良(2013):『入門刑法学・各論 (法学教室ライブラリィ) 』

文書偽造の整理

  <客体> <印> <形態> <権限> <適用条文> <罪刑> <未遂> <行使・未遂> 参考
  公文書 有印 偽造 有形 155条1項 一年以上十年以下の懲役   158条1項・2項  
    無形 156条 一年以上十年以下の懲役   158条1項・2項 身分犯
  by私人→ 間接無形 157条1項 五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金 157条3項 158条1項・2項  
  by私人→ 間接無形 157条2項 一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金 157条3項 158条1項・2項  
  変造 有形 155条2項 一年以上十年以下の懲役   158条1項・2項  
    無形 156条 一年以上十年以下の懲役   158条1項・2項 身分犯
  無印 偽造 有形 155条3項 三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金   158条1項・2項  
    無形 156条 一年以上十年以下の懲役   158条1項・2項 身分犯
  変造 有形 155条3項 三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金   158条1項・2項  
    無形 156条 一年以上十年以下の懲役   158条1項・2項 身分犯
  私文書 有印 偽造 有形 159条1項 三月以上五年以下の懲役に処する 不可罰、167条1項・2項 161条1項・2項  
    無形 160条 三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金 不可罰、167条1項・2項   医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書
  →原則 無形 上記以外 不可罰(but作成名義の冒用、同一性の齟齬) 不可罰、167条1項・2項    
  変造 有形 159条2項 三月以上五年以下の懲役に処する 不可罰、167条1項・2項 161条1項・2項  
    無形   不可罰(but作成名義の冒用、同一性の齟齬) 不可罰、167条1項・2項    
  無印 偽造 有形 159条3項 一年以下の懲役又は十万円以下の罰金   161条1項・2項  
    無形          
  変造 有形 159条3項 一年以下の懲役又は十万円以下の罰金   161条1項・2項  
    無形          
                   
*井田良(2013)、pp.170-171. <現行刑法> <条文> <公文書> <私文書> 参考      
作成名義→ 形式主義 基本 ←下記条文以外     作成名義の冒用、同一性の齟齬      
内容的真実→ 実質主義 補充 ←156条、157条、160条 156条 160条位        
                   
                   
<条文> 引用元:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html
155条1 項 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
155条2項 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
155条3項 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
156条 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。
157条1項 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
157条2項 公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
157条3項 前二項の罪の未遂は、罰する。
158条1項 第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使し、又は前条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。
158条2項 前項の罪の未遂は、罰する。
159条1項 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
159条2項 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
159条3項 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
160条 医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
161条1項 前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
161条2項 前項の罪の未遂は、罰する。
                   
167条1項 行使の目的で、他人の印章又は署名を偽造した者は、三年以下の懲役に処する。
167条2項 他人の印章若しくは署名を不正に使用し、又は偽造した印章若しくは署名を使用した者も、前項と同様とする。
                   
    <参考文献>      
山口厚(2011):『刑法』            
井田良(2013):『入門刑法学・各論 』            

国家賠償法

 

・写真集の輸入→税関長:関税法69条の11第17号に該当する通知(本件通知)→取り消し訴訟→取り消しの判決

→国賠請求

・本件通知の半年前には同様の写真が「関税法69条の11第17号に該当する」との最高裁判決があった。

・本件通知について(1)公権力発動要件欠如説 (2)職務行為基準説から検討

 

参考:土田伸也 (2016) p.266ff

メイプルソープ事件(jawp

 

<ノート>

 

違法の意味について(反対説:行為により生じた結果が法の許容するものか否かで検討)

法律による行政の原理:法規範に従って行政を行う

この点に従い判断をすべきであり行為不法説が妥当

公権力発動要件欠如説(学説?)と職務行為基準説(判例

 

【2】公権力発動要件欠如説の場合

 

公権力の行使:法律による要件を満たしていたかで検討。充足していないにも関わらず公権力が発動された場合には違法とする。

(1)原因行為、(2)法律要件、(3)法律要件を満たして公権力の発動がされたかを検討。

取消判決の効果:公権力発動要件欠如説の場合、違法性同一説(取消違法=法律要件を満たしていない)

 

【3】職務行為基準説(判例)の場合

上記(1)から(3)に加えて(4)通常尽くすべき注意義務を尽くしていたかを更に検討

する。

取消判決の効果:違法性相対説(通常尽くすべき注意義務を尽くしていたか、の要素はまだ検討されていない)

最高裁判決(メイプルソープ事件、jawp?)があったことを踏まえて本件通知を行った=通常尽くすべき注意義務を尽くしていた=国賠法上の違法性はない。

 

4】職務行為基準説(判例)の問題点

・国家賠償訴訟請求の法秩序維持機能の脆弱化

職務上の注意義務違反がない場合には、法律の要件を満たしていなくとも適法になる。

法規範に従って行政を行うか従い判断をすべきであり行為不法説のチェックが弱くなる。

 

・過失の要素を違法性の要素に取り込むという構成

11項:「故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」

違法の要件とは別に故意・過失の要素を設けている。

 

参考:土田伸也 (2016)p.266ff

 

cf. 中原茂樹(2015p.400ffの解説

職務行為基準説:過失と違法を一元的に審査をする=民法不法行為法(民法709条)と共通→損害の公平な填補という損害賠償法制度の側面を重視

国賠訴訟では職務上の注意義務違反の判断がされ(→違法性相対説)、国賠法上の過失

職務上の注意義務違反がある場合、抗告訴訟における違法性が前提

 

公権力発動要件欠如説:過失と違法の二次元的に審査。

注意義務違反=過失の問題

違法行為抑止・違法状態排除機能を意図している。

「違法だが過失がない」という判断も。

例 最高裁平成379日:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52770

 

・高速道路で動物が侵入→避けるために中央分離帯に衝突、重症→国賠請求

被告&主張・反論

 

・以前から動物が侵入、動物が死ぬ事故はあるが死亡事故はなし。他の区間ではあり。対策に1億円かかる。

動物愛護団体などから対策の要請はあったが全国的にも一般的ではない。動物注意の標識はあった。

 

参考:土田伸也 (2016) p.276ff

最高裁平成2232日判決:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=38526

高知落石事件=最高裁 昭和45820日:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54103 

 

・被告について。

高速道路:国の管理 

費用負担者:国と県

国と県両方可能。

 

・主張

2条の「(1)道路、河川その他の公の営造物の(2)設置又は管理に瑕疵があつたために(3)他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」

(1)は国又は公共団体によって直接公目的に供されている(判例

(2)の検証。

(2)について、無過失責任(高知落石事件)のため過失の主張は不要。

設置又は管理に瑕疵:通常有すべき安全性の欠如(判例)。

※参考「国家賠償法二条一項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としないと解するを相当とする。(高知落石事件)」

個別具体的に諸般の事情から総合判断(夢野台高校校庭転落事件)

諸般の事情:営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況

高速道路:人の侵入が予定されていない。動物の侵入などで事故が起こりやすい

他の箇所で死亡事故:予見しやすい

人工公物:予算の制約は瑕疵の否定にならない(判例:大東水害訴訟)

 

・被告側の主張

適切な運転で事故の回避は可能。現実に同区間で過去に死亡事故がない。

防止対策も一般的ではない=瑕疵にならない。

道路標識の設置

 

・参考 最高裁平成2232日判決

 北海道内の高速道路で自動車の運転者がキツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こした場合において,(1)走行中の自動車が上記道路に侵入したキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではないこと,(2)金網の柵を地面との透き間無く設置し,地面にコンクリートを敷くという小動物の侵入防止対策が全国で広く採られていたという事情はうかがわれず,そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであること,(3上記道路には動物注意の標識が設置されていたことなど判示の事情の下においては,上記(2)のような対策が講じられていなかったからといって,上記道路に設置又は管理の瑕疵があったとはいえない。

 

・予算制約が免責事由になりうる? 最高裁 昭和45820日との整合性

「本件道路には従来山側から屡々落石があり、さらに崩土さえも何回かあつたのであるから、いつなんどき落石や崩土が起こるかも知れず、本件道路を通行する人および車はたえずその危険におびやかされていたにもかかわらず、道路管理者においては、「落石注意」等の標識を立て、あるいは竹竿の先に赤の布切をつけて立て、これによつて通行車に対し注意を促す等の処置を講じたにすぎず、本件道路の右のような危険性に対して防護柵または防護覆を設置し、あるいは山側に金網を張るとか、常時山地斜面部分を調査して、落下しそうな岩石があるときは、これを除去し、崩土の起こるおそれのあるときは、事前に通行止めをする等の措置をとつたことはない、というのである。(中略)本件道路における防護柵を設置するとした場合、その費用の額が相当の多額にのぼり、上告人県としてその予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それにより直ちに道路の管理の瑕疵によつて生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできないのであり、その他、本件事故が不可抗力ないし回避可能性のない場合であることを認めることができない旨の原審の判断は、いずれも正当として是認することができる」

他に対策手段があったのにも関わらず、何も対策がされていない場合に、その一つの対策方法について、「その予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それにより直ちに道路の管理の瑕疵によつて生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできない」

 

<参考>

 

条文

引用元: http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO125.html

第一条1

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

第一条2

前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

第二条1

道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

第二条2

前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

第三条1

前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。

第三条2

前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。

第四条

国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法 の規定による。

第五条

国又は公共団体の損害賠償の責任について民法 以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。

第六条

この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。

 

 

<参考文献>

土田伸也 (2016):『基礎演習 行政法』、日本評論社

土田伸也 (2014):『基礎演習 行政法』、日本評論社

中原茂樹(2015:『基本行政法』、日本評論社

中原茂樹(2013:『基本行政法』、日本評論社

 

山口厚(2010) 財産犯の復習ノート

山口厚(2010)の復習ノート

 

<財産犯の全体像>

 

個別財産

領得罪

直接領得罪

移転罪

強取罪

窃盗罪(動産・有体性)

 

 

親族244

不動産侵奪罪

 

不動産

親族244

強盗罪

 

2

2項・不動産

1項・不動産:西田説等)

親族244

交付罪

詐欺罪

2

不動産

親族244

恐喝罪

2

不動産

親族244

非移転罪

 

横領罪

 

不動産

親族244

間接領得罪

 

 

盗品等関与罪

 

 

親族257

毀棄・隠匿罪

 

 

 

器物損壊罪

 

 

 

全体財産詐欺罪(少数)

 

 

 

 

背任罪

2

 

親族244

(出所: 山口厚(2010) p168に加筆)

 

6章 財産に対する罪

第1節 財産犯の体系

1 客体としての財産

2 財物と財産上の利益

財物 動産 不動産 

3 個別財産に対する罪と全体財産に対する罪

背任罪 2項犯罪

4 領得罪と毀棄罪

領得罪と毀棄罪 移転罪と非移転罪

 

第二節 窃盗罪

第一款 総説

他人の占有 自己の所有物 財物罪 利益窃盗 営業秘密の保護 強盗・詐欺・恐喝・横領との境界

第二款 財物

1 有体物

有体性 管理可能性 刑法245 大審院 有体性(多数説・通説?) 

管理可能性概念では財物の範囲が広くなりすぎる。 

例:電気以外のエネルギー、債権、情報も含まれるが利益窃盗を不可罰とする現行刑法と矛盾

(管理可能性からも限定を加える立場もあるが)財物概念の明確性から有体性説が妥当である。

財物は空間の一部を占める有形的存在を持つものに限られる(245条は特別規定と解する)。

参考: 山口厚(2010),p170

 

2 不動産

3 人体・臓器など

4 財産的価値

判例 所有権の目的 金銭的・経済的価値 交換価値 使用価値 積極的価値 消極的価値

 

消極的価値(使用されないように手元に置く)を含めるか?

日本銀行が消去のために回収をした日本銀行券について、廃棄処分まで保管する利益も財産的価値から排除する理由はない。

参考: 山口厚(2010),p174

 

第三款 占有

1 総説 

他人の占有の要件 事実上の支配 代理占有・占有改定・相続 遺失物等横領 横領罪との区別

2 占有の存否

占有の事実 占有の意思 占有の限界 支配の事実的可能性 支配の事実的可能性がない場合 社会観念? 占有の意思の推認 判例

3 占有の帰属

複数のものが関与する場合 共同 上下関係 支配関係 封 委託者

 

封を開いて、内容物を領得する場合

委託者に残された内容物に対する占有が侵害されている

窃盗罪が成立

物自体(全体)を領得する場合も同様に解するのが妥当。

(反対説:前者は窃盗罪・後者は横領罪、両者とも横領罪が成立)

参考: 山口厚(2010),p180

 

4 いわゆる「死者の占有」

 

事例A:当初から奪取の意図で殺害奪う 強盗殺人(判例・学説)

事例B:殺害後に奪取 遺失物等横領罪(判例

事例C:殺害後に第三者が奪取 窃盗罪(直後、判例

 

死者は権利主体としては存在しないことや、肯定したとしても範囲が不明瞭であり感覚的な基準により決せることになり恣意に流れる危険性がある。

死者の占有は否定し(事例BCは)遺失物等横領罪の成立の肯定にとどめるのが妥当である。

参考: 山口厚(2010),p180

 

 

第四款 窃盗罪の保護法益

1 他人の財物

他人の財物 の=所有  無主物 無主物先占 葬祭対象物 190条 納棺物 

 

(学説上、窃盗罪も成立するとする見解があるが)葬祭の対象とされた納棺物についてはその所有権が実質的には放棄されたものとみなすべきである

領得しても納棺物領得罪(190条)のみが成立すると解する(判例に同旨 大判大正4624日)

参考: 山口厚(2010),p183

 

2 本権説と占有説の対立

刑法242条の規定 客体の広がり 自力救済 民事法

3 判例の動向

本権説から占有説 従属から独立 恩給年金 債権取立ての脅迫 

4 学説の動向

本権説 中間 平穏な占有 合理的理由のある占有 占有説

5 本書の見解

 

本権説によると自力救済を肯定することになるが、民事紛争解決のための法制的制度を用意していることが無意味になる。他方で現行法が端的に「他人が占有する物」を窃盗罪の客体として規定しない点、権原に基づかない占有を所有者が取り返すケースなどあらゆる占有侵害に当罰性があるかは疑問があることを踏まえると占有を一律に保護するのは保護の範囲が広くなりすぎる。

中間説の立場に立ちつつ保護に値する占有の限界を画するか検討するのが妥当である。

民事法上認めうる利益が存在する合理的な可能性がある占有まで保護をすべきである。

即ち、権利に基づく場合に加えて、同時履行の抗弁権による引渡し拒否などの利益など、民事法上認められる利益を備えた専有であれば保護されるべきである。

また、所有者との関係で占有者に引渡しを拒絶する利益を認められる場合も含むと解する。

他方で、窃盗犯人のように所有者との関係で占有を維持する利益を認めることが出来ない場合には除外すべきと考える。

また民事訴訟を経ないと確定しがたい事案についても、法的紛争解決制度を利用すべきであり、自力救済禁止原則を根拠に財産犯の保護法益に含めるのは妥当ではないと解する。

 

参考: 山口厚(2010),p189-191

 

第五款 占有の取得

1 窃取

占有の移転 占有の取得 第三者領得

 

第三者領得について明文には規定がないが窃盗罪になりうると解する。

行為者自身が領得するのと同視しうる場合に限られる、単に占有者に損害を加えるためだけに第三者に占有を移転する場合は除外されることになると解する。

 

参考: 山口厚(2010),p192

 

 

2 未遂成立時期 

意義 判例

3 既遂時期

意義 判例 

 

第六款 不法領得の意思

1 総説

判例・通説 主観的要件

2 判例・学説の動向

(1)判例 教育勅語 一時使用 排除意思 使用意思 使用窃盗 毀棄

(2)学説  排除意思+使用意思 片方 不要

 

判例:不法領得の意思が必要。排除意思、利用意思の双方が必要

反対説:排除意思、利用意思の片方のみ 不法領得の意思不要説

不可罰の一時使用と可罰的な窃盗罪、窃盗罪と毀棄罪の区別を適切にするために排除意思、利用意思双方が必要であると解する(判例の立場が妥当である)。

排除意思は可罰的な利用妨害なる法益侵害を惹起しようとする意思であり、主観的違法要素である。

参考: 山口厚(2010),p195

 

※利用意思を不要とすると毀棄・隠匿の意思で財物を奪取しても窃盗罪が成立する。

毀棄罪は財物の占有の移転を伴わない場合にのみ成立することになり、また隠匿行為はすべて窃盗罪として可罰的なものになってしまい妥当ではない。

窃盗罪と毀棄罪の実質的な区別のために利用意思は必要である。

参考: 山口厚(2010),p199

 

3 一時使用

(1)判例の動向 乗り物の一時使用 返還意思の有無 自動車 秘密文書 (2) 排除意思 反対説 客観的な利用妨害 主観的違法要素:可罰的な利用妨害を惹起しようとする意思 返還意思のない一時使用 返還意思があっても使用可能性を妨害する場合 物に化体された価値の消耗をする場合 排除意思

4 毀棄罪との区別

(1)判例の動向 経済的用法 (2)利用意思の意義 利用意思不要(2 判例・学説の動向)

 

利用意思を不要とすると毀棄・隠匿の意思で財物を奪取しても窃盗罪が成立する。

毀棄罪は財物の占有の移転を伴わない場合にのみ成立することになり、また隠匿行為はすべて窃盗罪として可罰的なものになってしまい妥当ではない。

窃盗罪と毀棄罪の実質的な区別のために利用意思は必要である。

利用意思とは財物から生ずる何らかの効用を享受する意思であると解する。

この立場からは、法益侵害行為が強力な動機により行われるため責任が重いする責任要素と解する。

そのため窃盗罪は毀棄罪よりも法定刑が重いと解する。

(遺失物等横領罪が毀棄罪より軽い:占有侵害が存在しないため違法性が軽くなっており、誘惑的であるため責任も軽い)

参考: 山口厚(2010),p199-200

 

 

第七款 不動産侵奪罪

1 総説

2 客体

(1)他人の不動産 (2)占有 

3 侵奪 実質的な支配の侵害 他人の占有の排除 賃貸 状態犯 制定前 質的変化

第八款 親族間の犯罪に関する特例

1 総説

刑の免除 親告罪 不均衡 

2 特例の趣旨・根拠

政策説 違法性減少 責任減少

 

反対説:親族間では所有・占有関係が合同的であり区別が不明確であるため法益侵害が軽微であるため違法が減少する

反対説:親族間であれば誘惑的であるから責任が減少する

同居していなくとも所有・占有関係が不明確でない場合でも適用されるから違法減少を一般的に肯定しうるか疑問。

また、同居していない親族間では親告罪とされているが(2442項)この場合所有・占有関係の区別が不明確さという事情はない。

更に責任減少を基礎付ける事情も類型的には認められない。

親族間の紛争には国家は介入を控えるという政策説による説明が妥当

 

参考: 山口厚(2010),p206

 

3 適用要件

(1)親族の意義 民法725条 内縁 (2)親族関係が必要な人的範囲 学説・判例 所有者と犯人 占有者と犯人 所有者・占有者と犯人 占有説

 

(政策説を前提に)所有者及び占有者と犯人との間に親族関係があれば紛争は親族内にとどまっていると言える。

所有者及び占有者と犯人との間に親族関係がある場合に適用される

 

参考: 山口厚(2010),p208

 

4 錯誤

違法性減少説 責任減少説 政策説

 

第三節 強盗罪

第一款 総説

1項・2項 拡張類型 準強盗罪

第二款 客体

1 財物

不動産 1項 2項 

 

詐欺罪・恐喝罪・横領罪で不動産が財物ないし物に含まれており、それとの整合性から不動産を財物に含まれていると解する。

登記名簿による法律的支配があれば不動産に対する占有を肯定することが出来る

暴行・脅迫により不動産登記名簿を取得する場合、1項強盗が成立

 

参考: 山口厚(2010),p210-211

 

2 財産上の利得

(1)移転性のある利益 移転罪 情報やサービス (2)不法な利得 判例

第三款 暴行・脅迫

1 総説

2 犯行抑圧の手段 

恐喝罪との区別 判例 客観的判断 

 

被害者の反抗の抑圧の有無により恐喝罪(交付罪)と強盗罪(強取罪)の区別がなされる

(1)一般に被害者の犯行を抑圧するに足る暴行脅迫があったが被害者の犯行が抑圧されずに財物の移転

強盗未遂と恐喝既遂の観念的競合が成立(大阪地裁平成4922日)。

(2)一般に被害者の犯行を抑圧するに足りない暴行脅迫だったが被害者が臆病で犯行が抑圧され財物の移転

実際に抑圧された以上は強盗既遂を認める。

 

参考: 山口厚(2010),p212

 

ひったくり

 

3 暴行・脅迫の相手方

乳児 占有補助者 

 

第四款 強取

1 総説

暴行・脅迫 反抗の抑圧 逃走 気づかない間に取る 逃走中に落とす

2 財物奪取後の暴行・脅迫

 

占有の移転が先にあり、その後に暴行・脅迫で保持

判例最判昭和24215日)・学説:強盗罪の成立

暴行・脅迫が財物奪取の手段になっていないため1項強盗は成立しない。2項強盗または事後強盗罪の成立

 

参考: 山口厚(2010),p217

 

3 暴行・脅迫後の領得意思

 

強盗以外の目的で暴行・脅迫。その後領得意思が生じた場合

財物に奪取に向けた新たな暴行・脅迫が必要である(近時の下級審判決:必要説)。

準強姦罪1782項)のような規定がない以上不要説は妥当ではない。)

既に反抗が抑圧されているため、通常の場合に比して程度の低いもの、反抗抑圧状態の維持・継続させるもので足りる。

 

参考: 山口厚(2010),p217-218

 

 

第五款 不法利得

1 利益の移転 (1)不法利得 移転の有無の不明確さ (2)処分行為 

 

例:債権者を殺害をして債務の返済を逃れる、運転手を暴行をして支払い請求できない状態にする

強盗罪には被害者の反抗の抑圧が必要

意思が抑圧されれば処分行為をなす余地はないから不要説が妥当。

 

参考: 山口厚(2010),p220

 

(3)財産上の利益の移転 債権者の殺害 相続人・被相続人の殺害

 

2 財物詐取・窃取後の暴行・脅迫

(1)財物窃取後の暴行・脅迫

例:無銭飲食のあと、暴行・脅迫で支払いを逃れる

物の販売により生じた代金債権は物とは別個保護に値する

1項詐欺と2項強盗の成立、重い後者の包括一罪とする。

 

参考: 山口厚(2010),p222

 

(2)財物詐取後の暴行・脅迫

財物詐取返還請求に対して暴行・脅迫2項強盗が成立するか、する場合に窃盗との関係

 

判例:窃盗と2項強盗の成立、重い後者の包括一罪とする。

学説:変換請求権は窃盗より侵害された所有権の内容につき、不可罰的事後行為

独立して処罰の対象にならない

 

参考: 山口厚(2010),p223

 

第六款 事後強盗罪

1 総説 結合犯

2 構成要件

(1)窃盗 強盗も含む 身分犯? (2)暴行・脅迫 相手方 第三者 警察 犯行現場・機会の継続中 

3 未遂・予備

(1)未遂 窃盗の未遂・既遂 暴行・脅迫の未遂・既遂 (2)予備 予備の可罰性 

 

反対説:条文の位置、不可罰である窃盗予備を処罰することになるため否定

事後強盗の意思がある場合には単なる窃盗の予備とはいえない。

居直り強盗の未必的意思がある場合について否定するのは妥当ではない

予備も可罰的

 

参考: 山口厚(2010),p227

 

4 共犯

(1)先行者が窃盗(未遂)・後行者が暴行・脅迫のみに関与 事後強盗犯の構成 真性身分犯 不真性身分犯 複合身分犯 結合犯 (2)身分犯の難点 結合犯

 

 

反対説:事後強盗犯を身分犯とする見解

暴行・脅迫が事後強盗罪の構成要件該当行為で暴行・脅迫罪の加重類型とする見解

身分としての窃盗を窃盗未遂に含むと、窃盗が未遂、その後の逮捕免脱・罪跡隠滅目的で暴行脅迫をすると事後強盗が既遂になり妥当ではない。

窃盗既遂に限定をしても、先行の窃盗が未遂の場合には事後強盗が処罰範囲から脱落し妥当ではない。

(先行する窃盗が未遂であれば財物の変換請求権が存在しないためまた加重類型とすることも妥当ではない。)

単なる責任の加重により強盗罪・同未遂罪と同様な可罰性が肯定する理由を基礎付けられるかは疑問

新たな窃盗罪が別途成立する(事後強盗罪と併合罪となる)と解さざるを得なくなる

事後強盗罪は窃盗罪と暴行・脅迫罪の結合罪であると解するのが妥当

(暴行・脅迫のみ関与したケース・・・承継的共犯の成否から決せられる。否定説:暴行・脅迫罪の共犯)

 

参考: 山口厚(2010),p229

 

第七款 昏酔強盗罪

1 総説

2 構成要件

昏酔 意識喪失

第八款 強盗致死罪

1 総説

2 主体

強盗既遂 強盗未遂 手段説 機会説・判例 密接関連説 拡張された手段説

 

 

機会説:強盗致死傷罪の成立範囲を拡張しすぎる

(強盗罪と死傷を惹起した罪の観念的競合を超えた)重い法定刑が規定されていることを正当化できない

密接関連説:限界が不明瞭

実際上問題となるのは238条所定の目的で行った暴行・脅迫から死傷が生じた場合の処理

強盗の手段である暴行・脅迫

事後強盗類似の状況における暴行・脅迫

から死傷が生じたケースに強盗致傷罪の成立すると解する。

 

参考: 山口厚(2010),p232-233

 

3 致死傷の原因行為

(1)主観的要件

(2)死傷について故意がある場合 殺人と強盗(致死)の観念的競合? 二重評価

4 原因行為の主観的用件

機会説 手段説 密接関連説

5 障害の程度

限定説 非限定説 

6 強盗殺人罪における強取の範囲

行為の連続性・意思の単一性

7 未遂

死傷の結果が生じたが強盗が未遂のケース 傷害の故意で傷害が発生しないケース

 

第九款 強盗強姦及び同致死罪

1 強盗強姦罪

強盗 強姦 結合犯 強盗未遂 強姦の既遂・未遂 準強姦 強盗後に強姦の意思 強姦の後に強盗 

2 強盗強姦致死罪

(1)強盗強姦致死 結果的加重犯 死の故意 死後姦淫

 

反対説:強盗強姦致死について死の結果についての故意を含めない。

この立場からは

(1)強盗強姦致死罪と殺人罪の観念的競合

(2)強盗強姦罪殺人罪の観念的競合

(3)強盗殺人罪と強盗強姦罪の観念的競合(強盗殺人罪:機会説が前提)

(1)は死の結果を二重評価

(2)は強盗致死罪よりも刑が軽くなる

(3)は強盗の二重評価

(強盗致死傷罪について拡張された手段説から)刑の均衡から強盗強姦致死について死の結果についての故意がある場合を含むとするのが妥当。

 

参考: 山口厚(2010),p238-239

 

(2)強盗強姦致傷

 

第四節 詐欺罪

第一款 総説

1 詐欺罪の基本構造・性格

交付 占有者の意思に基づく占有移転 瑕疵ある意思 電子計算機使用詐欺罪・準詐欺罪(2462) 準詐欺罪

2 国家的法益と詐欺罪の成否

脱税 旅券などの取得 制御機構の侵害 

第二款 客体

1 財物

他人の占有する他人の財物 不動産 登記 法律的支配 事実的利益の支配

2 財産上の利得

(1)移転性のある利益 移転 元の占有者の法益侵害 情報やサービス 情報の非移転性 有償のサービス 2項詐欺 (2)不法な利益 民事上保護されない利益 cf.窃盗罪 (3)物の請求権の取得 引渡し請求権 1項詐欺の未遂 不動産の窃取 (4)債務履行の一時猶予 債権の財産的価値の減少の要否 (5)支払いの繰上げ 判例

第三款 欺もう行為

1 総説

(1)錯誤の惹起 錯誤の惹起 交付行為 物・利益の移転 因果経過 判断基準 個別事情 (2)人による交付行為 機械の不正操作 ATM 窃盗 (3)対象 重要な事実 錯誤と交付行為に条件関係 

2 不作為

作為義務 保証人的地位 不動産の抵当権の登記の告知義務? 信用状態・営業状態の告知義務 挙動による詐欺  

3 つり銭詐欺の法的評価

第四款 交付行為

1 総説

意思に基づく交付 強取との区別 交付意思 直接性の要件 占有の弛緩 第三者 特別な関係

2 交付意思

(1)意思に基づく占有移転 窃盗との境界 意思内容 完全な認識 物の交換 (2)交付意思の内容 交付する物自体に錯誤がない場合 試乗車 店先にでる認識=占有の弛緩 黙示の意思表示  交付する物自体に錯誤がある場合 意識的交付行為説 無意識的交付行為説 

被偽もう者の移転意思に基づき物・財産上の利益の移転をした場合、移転する物・財産上の利益の価値・内容・数量に錯誤があっても、意識に基づく占有移転を認めて、交付行為の存在・詐欺罪の成立を肯定するのが妥当。

3 キセル乗車の法的評価

(1)2項詐欺の肯定・否定 肯定の場合乗車下車のいずれか (1)否定説 (2)乗車駅基準説 (3)下車駅基準説

 

 

否定説

乗車駅:乗車券は有効、乗り越しを申告する義務はない=偽もう行為の要件を欠く

下車駅:の改札口係は未払い運賃を知らない=交付行為の要件に欠く

乗車時点では挙動による偽もうといいうる。下車時点では交付行為の要件が厳格すぎて妥当でない。

反対説:乗車駅基準説

購入をした乗車券は有効であり、乗り越しの申告義務はないが乗車時点では挙動による偽もうといいうる。

しかし、交付行為による役務の移転を肯定できない。

(下車駅基準説)

清算すべき運賃があるのにそれを秘して改札口を通る行為=改札口係員に対する偽もう行為

改札口係員が通過させ、支払いを免れる行為を交付行為と解する。

 

参考: 山口厚(2010),p257-258

 

 

4 三角詐欺

(1)被偽もう者と被害者の分離 財産を処分しうる地位・権利 (2)訴訟詐欺 裁判所 (3)クレジットカード 否定説 判例 学説

 

 

判例:加盟店を非被偽もう者=被害者とする1項詐欺(福岡高判・昭和56921日等)

加盟店:カード会社から代金の支払いを受けることが出来る:取引の目的は達成していて、被害者とするのは疑問がある。

他方、カード会社は錯誤がなくとも支払いを要するから錯誤に基づく交付行為を認めることが出来ない。

加盟店はカード会社から支払いを受けることが出来るから「財産を処分しうる権能または地位」があると言える。

その地位に関する限りで顧客の支払い意思や能力に無関心ではいられない

(疑問はあるものの……)加盟店にたいする偽もう行為、錯誤を認めることが出来る。

加盟店を偽もうをして、カード会社から加盟店に代金相当額の支払いを受ける地位を与えた点で第三者に対する交付としての詐欺罪を肯定することが出来る。

(加盟店は本来代金を払う相手であるから第三者に交付させる詐欺罪を肯定できる)

※商品購入(上記の地位を与えた)時点で既遂

 

参考: 山口厚(2010),p261-262

 

第五款 物・利益の移転

1 財産の移転と法益関係的錯誤

2 証明書の不正取得

3 不法原因給付と詐欺

4 権利行使と詐欺

第六款 電子計算機使用詐欺罪

1 総説

2 構成要件

第七款 準詐欺罪

1 総説

2 構成要件

 

第五節 恐喝罪

第一款 総説

第二款 客体

1 財物

2 財産上の利益

第三款 恐喝

1 総説

2 暴行

3 脅迫

第四款 交付行為

1 総説

2 交付行為の意義

第五款 物・利益の移転

1 総説

2 権利行使と恐喝

第六款 他の犯罪との関係

 

第六節 横領罪

第一款 総説

1 保護法益

2 横領3罪の関係

3 親族間の犯罪に関する特例

第二款 客体

1 総説

2 物

3 占有

4 物の他人性

第三款 横領行為

1 総説

2 不法領得の意思

第四款 共犯

第五款 財数

1 穴埋め横領

2 横領物の横領

第六款 詐欺罪との関係

1 領得意思による集金

2 欺もうによる横領

第七款 業務上横領罪

1 加重規定

2 業務上の占有者

3 共犯

第八款 遺失物等横領罪

1 基本類型

2 客体

3 他の犯罪との関係

 

第七節 背任罪

第一款 総説

1 背任罪の独自性

2 背任罪の罪質

3 全体財産に対する罪

第二款 主体

1 総説

2 他人の事務

3 委託された事務

第三款 任務違背行為

第四款 図利加害目的

1 総説

2 図利加害目的の内容

第五款 財産上の存在

1 経済的見地からする評価

2 全体財産の減少

第六款 他の犯罪との関係

1 詐欺罪との関係

2 委託物横領罪との関係

 

第八節 盗品等に関する罪

第一款 総説

1 盗品等関与罪

2 罪質

第二款 客体

1 総説

2 追求権

3 同一性

第三款 行為類型

1 総説

2 無償譲受け

3 運搬

4 保管

5 有償譲受け

6 有償処分のあっせん

第四款 罪数・他の罪との関係

1 盗品等関与罪相互間

2 本犯と盗品等関与罪との関係

3 盗品等有償処分あっせん罪と詐欺罪の関係

第五款 親族等の間の犯罪に関する特例

 

第九節 毀棄・隠匿罪

第一款 総説

1 罪質 2 毀棄の概念

第二款 毀棄・隠匿罪の諸類系

1 公用文章等毀棄罪 

2 私用文章等毀棄罪

3 建造物等損壊罪・同致死罪

4 器物損壊罪

5 信書隠匿罪

第三款 境界損壊罪

1 総説

2 構成要件

 

 

<参考文献>

山口厚(2010):『刑法各論』、有斐閣