西田典之(2010)因果関係
<因果関係>
条件関係→相当因果関係
<相当因果関係:西田典之(2010) pp.100-106. >
条件説:条件関係があれば刑法上も因果関係がある
→帰責の範囲が広すぎる。稀有な因果経過場合に妥当ではない
→条件説からは故意を否定するアプローチ(稀有な因果経過:願望であって故意ではない)
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故意:経験則上相当な因果経過であることが前提
→客観的には条件関係で足り、主観的には相当な因果経過の認識が必要
→故意はその客観面の認識で足りるとしなければ論理的に成り立ちえない
→客観面で相当な因果経過を要求していることに帰着する
相当因果関係説:条件関係を制約。行為と結果(結果発生の危険も含む)との間に経験則上相当であるという関係が必要
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一般予防論を根拠とする見解:一般人が利用するであろうような因果経過の設定を禁止・処罰すれば足りる=一般的に通常な因果経過をたどって発生した結果のみを帰責する。
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しかし、上記では結果予防はできない。
刑法:刑罰の予告により人間の行動を心理的にコントロールする。どのような因果経過により結果が発生するかまではコントロールできない。
客観的帰責の問題は一般予防からは決定できない。
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客観的帰責の問題を決定するのは応報感情。
但し相当因果関係説:刑罰による応報の感情を一定の範囲に限定する。
(厳格な応報感情→条件説 その行為がなければその結果は生じない)
相当性の判断:主観説、客観説、折衷説
主観説:行為者が認識or予見可能であった事情を基礎
客観説:客観的事後予測。行為時に存在していたすべての事情・行為後に生じた一般人の見地から予見可能なもの
折衷説:行為時に一般人が認識可能なもの、行為者が特に知っていたもの、行為後に生じた一般人の見地から予見可能なもの
主観説の問題
故意・過失と同じになるため支持されない
折衷説の問題
一般人の予見可能性という基準が不明確
一般人を基準とする事前判断:主観的帰責として過失判断にのこるものがない 行為者基準説をとるしかない
(この説の論者が過失犯について 客観的注意義務違反について論じることは一貫性がない)
客観説
行為時の危険と行為後の危険の区別をする理論的正当性がない(※)
行為時の危険をすべて考慮する:稀有な事情、特殊な病院を考慮するのは妥当ではない→刑法の因果関係は損害負担の公平と言った民事的思考ではない。
因果関係の錯誤の問題(※)
経験的相当性説(西田説?)
行為時の危険・行為後の危険とも経験則上稀有のものは考慮すべきではない
裁判時に明らかになったすべての事情を基礎として科学的一般人の見地から判断
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何が経験則上稀有の危険であり因果経過であるかは
洗練された応報思想を基礎とした決断、謙抑性の思想から、応報感情も経験的通常性の枠内にとどめる。
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応報思想の妥当の正当化:行為時の危険が稀有のものでない場合、行為と介在事情との間に合理的関連性がある場合
例:AがB殴打>ハブにかまれて死亡
ヤンバル地区:相当性が肯定される
上野公園:相当性が肯定されない(稀有な介在事情:ハブの因果性により凌駕されて殴打行為の因果性は断絶 凌駕的因果性)
<※行為時の危険と行為後の危険の区別>
Aが殺意を持ってBを切り付けて重症、一命はとりとめたが救急車が事故で死亡( p91)
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客観説含めて相当性は否定
Aが殺意を持ってBを切り付けて重症、一命はとりとめたが救急車が老朽化していた橋が崩壊して死亡( p103)
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橋の老朽化=行為時の危険 客観説に立ち相当性は認める?
<※客観説の因果関係の錯誤の問題 西田典之(2010)pp.104-106.>
・(1)Aが殺意でBを切りつけたが軽傷を負わせ、血友病であったため出血多量で死亡
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Bが血友病であったこと:行為時の危険
客観説からは相当性あり
因果関係の錯誤の問題:構成要件的に符合する
・(2)Aが傷害の故意でBを切りつけたが軽傷を負わせ、血友病であったため出血多量で死亡
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通説からは致死の結果についての過失が必要。血友病について予見不可能であれば傷害致死は成立しない
想定された因果経過と現実の因果経過が相当性の範囲で一致しない
・(1)と(2)は不均衡
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行為時の危険について、経験則上稀有の危険は考慮しない
・(3)AがBにCの障害を教唆、血友病であったため出血多量で死亡、AはCの血友病を知っていたがBは不知。
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客観説:Aの教唆、Bの実行行為とも因果関係を持つ
経験的相当性説:Aの教唆は相当因果関係を持つ、Bの実行行為は因果関係がない。
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客観説からの批判:知識の有無により因果関係の存否が左右されるのは客観的であるべき因果関係の判断と矛盾
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相当因果関係:事実的な結合関係である条件関係を前提とした規範的な帰責判断・帰責判断の資料として主観も入れるべき。
<相当因果関係説の危機:西田典之(2010) pp.107ff>
相当性説の問題:介在事情が稀有・因果経過が異常な場合の判断に窮する。
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例(大阪南港事件)
Xの行為により気絶・脳内出血。
第三者がさらに暴行を加える・脳内出血の拡大
第三者の暴行により若干死期が早まった
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判旨:被告人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、その後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、被告人の暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。
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大谷直人(1991)
介在事情の異常性を相当性説がいかに処理をするのかが不明確であり、因果経過の通常性を基準とする相当性説は、行為の結果への寄与度を中心に両者の結びつきを具体的に探究する実務の思考方法とは異なっている。
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学説 略
西田典之(2010)
大阪南港事件では結果の同一性を問題とすべき。
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被告人により惹起されたであろう死亡と、第三者により惹起された30分早い死亡とは異なる結果であれば被告人の行為と30分早い死亡との因果関係は否定すべき
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大阪南港事件においては、被害者の死亡時刻が点として規定できるものではなく、一定の幅を有する。
第三者の介入行為があっても、死亡結果は被告人による傷害の結果の範囲内といえる。
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相当因果関係も肯定し得る。
<参考文献>
大谷直人(1991):『第三者の暴行が介在した場合でも当初の暴行と死亡との間の因果関係が認められるとされた事例――最3小決平成2・11・20』、ジュリスト 1991年3月1日号(No.974)
西田典之(2010):『刑法総論 (法律学講座双書)』、弘文堂